タンパク質の熱変性から理想の豚丼のレシピを考えてみる。

お嫁さんの作った豚丼の豚小間肉が硬いのが気になったのでちょっと調べてみた。

前々から思っていたことなんだけど、お嫁さんの作る豚汁とか豚丼のお肉が硬い。

うちでいつも使っている豚肉は豚小間肉だから部位によって硬いところがあるのはわかるんだけど、やっぱり自分が料理するときと比べて硬い気がするんだよ。

うちのお嫁さんは結構おおらかに料理をするので、そのせいかと思っていたわけだが、最近はこのブログの料理レシピを見て作っているので作り方は大体同じだ。

豚丼の作り方を聞いてみたところおおらかなところは見受けられたが、手順におかしなところはない。

なんとなく怪しいなと感じているのは火加減と煮込み時間。

お肉が硬くなる原因は火の通し方によるので、火力とその時間が関係してくるのは簡単に想像できる。

具体的には豚肉を入れる時の煮汁の温度と、その後の煮込むときの火加減と時間が怪しい。

この辺の話は以前牛すじ肉の下茹でのときにもちょっと調べたんだけど結論は出ていなかった。

温度変化、常温に戻す

基本的にタンパク質の熱変性は温度によって引き起こされるとするならば、温度差が大きいと変化が大きくなるという認識は間違っているように思う。

例えばこちらの豚しゃぶのレシピでは温度変化がお肉が硬くなる原因であると解説しています。そのためにお肉も茹でる前に常温に戻している。

しっとりやわらか豚しゃぶのコツ | SATETO さてと

急激な温度変化は、お肉が硬くなる一番の原因!使う前に常温に戻しておきます。

冷蔵庫から取り出してすぐの豚肉を熱湯でゆでると、急激な温度変化により豚肉の水分とうま味が抜け、タンパク質がギュッと縮み硬くなる原因になります。温度変化を小さくするのが一番のポイントです。

沸騰した熱湯でゆでると、1と同様に急激な温度変化で硬くなる原因に。沸騰したら一旦火を止め、豚肉の表面を洗うように1枚ずつ湯にくぐらせ、色が変わったらザルに上げます。

これだと茹でる時のお湯の温度はお肉が硬くなる直接の原因ではないという理屈です。つまり温度変化を小さくできるのであれば高温のお湯で調理してもお肉は硬くならないということ。

お肉が硬くなるということは科学的にはタンパク質の熱変性で説明できるはずで、そこで注目すべきは温度差(温度変化)ではなく調理する温度そのものです。

タンパク質の熱変性(加熱温度と豚肉のおいしさとの関係)【秋田栄養短期大学】

感覚的に言えば確か急激な温度変化は良くないような気がするけど、温度変化は現象の直接的な要因ではないのでこれだとやっぱり違う気がするわけで。

じゃあ常温に戻す必要はないじゃないか

これはその通りで常温に戻す必要はないんじゃないかと思う。

でもステーキなんかはよく焼く前に常温に戻すという工程があります。

ステーキなど厚いお肉を焼く場合、冷蔵庫から取り出してすぐのお肉をそのまま強い火で焼くと外側は焼けたけど、内側は生焼けということになってしまいます。

逆に内側はちょうどいいけど、外側は焼き過ぎになるか。

分厚いステーキや、ローストビーフなどの塊肉を焼く時は火の通りをなるべく均一にするために常温に戻すという工程が存在するわけです。

フライパンに食材を並べてから火をつけるコールドスタート調理も理屈は一緒。

フライパンも冷たい状態から調理してじっくり加熱することで火の通りを均一にすることができる。

肉は常温、ステーキは焼く30分前に塩が鉄則。プロはネットの情報にうんざりしてます【GojiLog】

最近は鶏の照り焼きやチキンソテーはいつもコールドスタートで調理している。簡単でおいしく焼けるので気に入っている調理法だ。

水から茹でるのが一番いいのか

豚の角煮などのレシピでは水から茹でるのが一般的です。なら水から茹でるのが一番いいのか。

豚しゃぶでも水から茹でるレシピもある。

目からウロコ!お肉やわらか茹で術☆【クックパッド】

豚の角煮を水から茹でるのはなぜか?それはお肉を柔らかくしたいからです。

豚の角煮の場合使うお肉は厚みのあるブロック肉です。

厚みのあるお肉や塊肉を調理する場合は常温に戻すのが鉄則です。

つまり豚の角煮を水から茹でるのはコールドスタート調理と同じ理由で説明できる。

二日がかりで作るホロホロな豚の角煮【クックパッド】

水からゆっくり加熱することで内側と外側の温度差を小さくしてブロック肉でも火の通りを均一にできる。

ということは薄い豚小間肉などを調理するときは水から茹でる必要はないのかと思う。

一度変性したタンパク質はさらに高温で調理するとどうなるのか?

ここで気になってくるのが低温で調理したお肉をその後にさらに高温で調理するとどうなるのか?ということです。

つまり豚丼などお肉を煮込む料理です。

お肉を柔らかく仕上げるために、水からまたは低温のお湯で茹でて調理します。

その後煮込み続けたとすると温度は高くなって結局タンパク質が変性してお肉が硬くなってしまうんじゃないかと考えるわけで。

こうなるとせっかく低温で柔らかく調理したとしても意味がなくなってしまう。

圧力なべはどうなの?

圧力なべは圧力をかけることで沸点が高くなりお湯の温度は120℃になります。

タンパク質の熱変性で考えれば100℃を超える高温なのでこれは良くないはず。

でも実際には圧力なべで煮込んだお肉は柔らかくおいしくなるという認識のはず。この矛盾はどういうことなのか?

一番合点がいったのがこの回答。

圧力鍋は、調理時間を短縮するものではありますが、長時間煮れば煮るほどバサバサになります。【Yahoo知恵袋】

圧力なべの認識としては「高温で調理することで調理時間を短縮できるが、高温で調理することで料理がおいしくなるものではない」というのが正解っぽい。

確かに圧力をかけて高温で調理するというのはなんか凄そうだし、ハイテク感もあって美味しくなりそうな気がします。

でも科学的に言えば高温で時間をかけて煮るほどタンパク質は変性して肉汁が出てお肉はパサパサになってしまう。

「圧力鍋 お肉 パサパサ」で調べると結構出てくる。

豚の角煮の茹で方にも言及していて、これも科学的に理にかなった方法を言っています。

次いで、豚の角煮は柔らかくしようと思うのなら、その前にキチンと水で2回は煮てください。一回当たり約1時間、合計2時間です。水煮は、火をかけて1度軽く沸騰したら蓋をして火を止めて・・・を繰り返すので常時火を付けておく必要はありません。おおむね30分に1度づつ2度火をつけて、それを2セット繰り返します。

ポイントは沸騰したら火を止めて蓋をする。火を止めた状態で30分置いておく。というところです。

これは茹で鶏で使う一般的な調理法でいわゆる低温調理というやつです。

結局は低温調理にいきつく

タンパク質の熱変性は100℃以上で一気に加速します。

お肉を調理する理想的な温度は60℃前後です。65℃がいいのかな?

65℃を超えるとアクチンが変性して水分が抜け始める。

低温調理は30分から1時間くらい時間をかけるのも特徴です。

お肉の外側と内側で熱の伝わり方が異なるので、低温で調理する場合は特に時間をかけて調理する必要があるわけです。

絶対に失敗しない肉料理のコツ!「火入れの科学」-[知識編]【Cooking Maniac】

低温調理での殺菌に必要な温度と美味しさの関係 | Peko Peko

ここまでくると大分答えは見えてきました。

お肉を煮込む場合も高温でグラグラと長時間煮込むのは良くない気がします。

煮込むのであれば弱火でコトコト。

肉の部位によって調理温度を変える必要がある

豚小間肉はいろんな部位のお肉が入っているということです。

ここで注目すべきはコラーゲンで、牛スジ、ほほ肉、スネ肉、肩ロースとかはコラーゲンが多い部位です。

お肉のコラーゲンは約65℃で収縮を始めてかたくなって、75℃~85℃で軟化し始めます

豚小間肉の場合はコラーゲンのゼラチン化が進みやすい75℃以上で調理するのが良さそうです。

これも時間をかければ軟化が進むというものではなく温度によって軟化率が異なるということ

つまり豚小間肉のような薄い肉の場合は長時間煮込む必要はない。塊肉の場合は熱の伝わり方に差があるので適当な煮込み時間が必要になると思う。

肉を煮る/煮込みによる肉のコラーゲンの変化 – 公益財団法人日本食肉消費総合センター

肉を柔らかくする方法④ | 料理科学の森

豚丼のお肉の茹で方は75℃以上のお湯で火を通すのが一番いいと思う。

一番ダメなのが65℃~75℃の中途半端な温度で調理すること。

アクチンが変性してお肉の水分が失われ、コラーゲンが収縮してお肉が硬くなる。

パサパサでかたいお肉になってしまう。

煮込み時間は長い方がいいのか問題?

例えば土手煮を作る場合かなり長時間煮込む。

でもタンパク質の熱変性は温度によるのでその時間には依存しない。

つまり時間をかけて煮込むとお肉が柔らかくなるというのは間違いになる。

塊肉の場合は中まで熱を伝えるためにある程度煮込み時間が必要になるのはわかるけど。

土手煮で使う牛すじ肉を考えると大きな肉ではないので煮込み時間は必要ないと思われる。

考えられるのはコラーゲン。牛すじ肉はコラーゲンが多いので柔らかくするにはコラーゲンをゼラチン化させなければならない。

コラーゲンのゼラチン化は75℃以上の温度が必要になる。

コラーゲンのゼラチン化は時間に依存するという認識でいいのだろうか?つまり煮込み時間に依存するということ。

肉の構造|株式会社ハマダフードシステム

こちらは硬タンパク質であり基本的には不溶性ですが、ごく一部は塩可溶、酸可溶であり、また、長時間水とともに加熱すると変性し水溶性のゼラチンになります。

肉加熱について ― 低温調理の「ロ」 – はるまきパタパタ

コラーゲンは丈夫なタンパク質なので、柔らかくするには煮込むなど、時間をかけて加熱するしかありません。

柔らかいお肉を食べる知恵(その2:火入れの温度) | だいどころらぼ

コラーゲン自体を柔らかいものにするには「70℃以上」の温度で長時間煮込めばいいそうです。ただ、70℃ではすごく時間がかかってしまいます。

どうやらコラーゲンを柔らかくするには時間も必要になる。

つまり煮込むという工程はお肉のコラーゲンを柔らかくするアプローチなわけだ。

ということはコラーゲンの軟化に適したある程度高温(75℃以上)で煮込まなければならない。

但しコラーゲンの軟化と並行してアクチンの変性も進むことを忘れてはいけない。高すぎる温度はアクチンの変性が急激に進み好ましくない。

コラーゲンの軟化と調理時間、アクチンの変性のバランスをみて適切な温度を考える必要がある。

低温で24時間加熱すると豚の肩ロースも柔らかくできます|樋口直哉(TravelingFoodLab.)|note

ただし、コラーゲンは時間さえかければ温度が多少低くても分解します。低温で長時間加熱するプライムリブという料理はその代表。

単純に煮込むという工程でも調理中の温度を意識する必要は大いにありそうだ。

火力と蓋の有無で容易に温度は変わってくる。

同じ弱火でもフタをしなければ水温は70~75℃程度なのに、フタをすると90℃を超えることも。フタの有無は煮込み料理において重要な要素のはずだ。

フタをするかしないかは、予想以上に大問題だった – All About NEWS

豚丼の場合で考えれば蓋をしないで弱火で煮込むで問題なさそうではある。

90℃を超えるとアクチンの変性が問題になりそうだ、上限としては85℃くらいか?

80℃前後であればコラーゲンのゼラチン化も進むので豚小間肉を調理する温度としてかなりいいんじゃないだろうか。

どうやって味を染み込ませるかを考える

肉じゃがとかがそうですが煮物は冷える時に味が染み込むと言われています。

この味が染み込むという理屈は科学的には拡散で説明できる。

この拡散という現象も温度に依存するようで45℃~50℃が一番拡散が進むようです。

冷めるとき味がしみこむのはなぜか? | 自然科学観察コンクール(シゼコン)

加熱によって細胞が壊れたところに煮汁の味が染み込んでいったと考えられるわけです。温度が低下して50~45°Cだと最も煮汁から肉への移動が起こると言われています。

煮物はなぜ冷めると味が染み込むのか | クックパッドニュース

これを再現するのであれば単純に温かい煮汁に茹でたお肉を入れて置いて冷めるまで放置するというやり方が簡単そうです。

つまり煮物を作るときに一般的に行っている方法です。

注意しなければならないのは調理後すぐに冷蔵庫に入れるのは良くないということ。

一気に冷やしてしまうと味が染み込む拡散の一番おいしいゾーンである45℃~50℃を素通りしてしまうからです。

理想の豚丼の作り方のまとめ

お肉を柔らかくするには3つのタンパク質(ミオシン、アクチン、コラーゲン)の性質を考える必要があって肉の部位によってその割合は違う。

豚丼で使うお肉は豚小間肉なのでコラーゲンが多そうな気がする。

なのでコラーゲンのゼラチン化が進みやすいある程度高温(75℃以上)で長時間煮込んだ方が良さそうだ。

【低温調理】豚バラ肉を65℃と78℃で2・4・7時間で食べ比べてみた | プロレシピブログ 艸SOUの作り方

とろとろチャーシューの作り方 | 理系飯

煮汁を作って豚肉を弱火で蓋をしないで煮る。

注意点はお肉を入れたらグツグツと煮立たせないないこと。

特に沸騰させる(100℃)とタンパク質(アクチン)の変性が一気に進み水分が抜けお肉が硬くなる。

タンパク質の熱変性(加熱温度と豚肉のおいしさとの関係)【秋田栄養短期大学】

弱火で蓋をしないで煮ると温度は70℃~75℃。

コラーゲンがある程度多い豚小間肉を煮るにはちょうどいい温度。理想的にはもう少し高温の80℃前後に保ちたい。

コラーゲンを柔らかくする(ゼラチン化)にはある程度の長時間加熱する必要がある。

30分~1時間程度かけて好みの硬さになるまで煮込む。

豚小間肉をいい感じの時間煮込んだら玉ねぎを入れる。

玉ねぎを煮込むときも弱火で煮込むしかない。

玉ねぎに火が通ったら火を止めて放置して冷ます。

45℃~50℃が一番味が染み込みやすい温度。常温か人肌程度まで冷ませば十分なのかな。

食べる時に温めて食べる。

仮説としてはこんな感じで、後は実際に作ってみてどうなるか様子を見てみよう。

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